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Silverbullet

Author:Silverbullet
ルエリ鯖主に7ch/モハフは3鯖
名前の由来は「銀の弾丸」で、通称ギンダマン。
勇者とは究極の器用貧乏である。

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モハポ劇場 事情編(上)
 現在は渓流地域として、ユクモ村の住人が生活に必要な資材を採取する主な場所となっているが、かつては、ここに都市を建設しようとした人々がいた。人類はほかの生物との熾烈な生存競争を潜り抜け、その生存圏を着々と広げているが、それは都市の発展とともに各地へ旅立つ開拓団の存在を抜きに語ることはできない。
 開拓団は生活に便利な地形を見つけると、そこに開拓村を建設する。開拓団の指導者は通常竜人族が務め、そのまま村長となる。開拓村建設と共に、その報告がハンターズギルドに届けられ、村にはハンターや武器職人などが派遣される。
 ハンターは村周辺の探索や大型モンスターの狩猟を行い、武器職人はその素材を利用して武具を鍛え、残りの素材は村の拡大や交易路の維持のための資金になったりもするし、より直接的に村人の食料になることも多い。特に豊かな自然に育まれる草食竜の肉は、食用に飼育された家畜よりも味では劣るが、栄養の面では劣るところがない、貴重な蛋白源なのである。
 村に派遣されるのがほとんど場合新人のハンターであることは、まず草食竜を狩り、竜骨などで武具を揃えることとそういった食肉が手に入る一石二鳥の意味がある。

 その開拓団が、現在は渓流のベースキャンプになっている場所にたどり着き、野営を始めたのは約二百年前のことだった。次の日にはベースキャンプのそばに勢い良く湧き出る清水が滝のごとくなっている場所が見つかった。その水の流れる先には、南に向けて開けながら、三方を岩山に囲まれた土地があり、そこを居住区画することが決まった。
 その後の調査で、居住区画の南には広大な湖が、東には深い森と渓流が、その北には後に霊峰と称される山々を望む小さな広場があることがわかった。
 開拓団はこの小さな広場に、山々を祀る社を建設し、村の安全と発展を祈願した。広大な湖は港を建設して交易路になることが期待され、深い森は開墾して農場にすれば豊かな水と肥沃な大地の恵みを村人にもたらすだろうと思われた。
 さらに、湧き水の東に近辺を一望できる高台が見つかり、将来はハンターズギルドの集会場とするにふさわしい場所と考えられた。近くには竹林に住むアイルー族の住処が見つかり、ここは彼らの場所として保護されることとなったが、社につながる吊り橋の建設はアイルー族の了承と協力を得て行われた。彼らにとっても谷の向こう側へ行けるようになることは大きな利益であったのだろう。
 社の近くには鍾乳洞が見つかり、数万年の時を経て大地に穿たれた巨大な空洞は、いずれ村が発展して都市となった時、貯蔵庫や万が一の避難場所となるだろうと思われた。

 平和で希望に満ちた時が過ぎた。。

「そして…… 秋の初め頃、ドスファンゴやアオアシラの出現が増えて、彼らが不吉な予感を胸に宿すよりも早く、ジンオウガは現れたのです」
 村長はそこで言葉を切った。
「ドスファンゴやアオアシラの出現が増えて……」
「今の状況に似てるような……」
 マリソルとましあが顔を見合わせる。
「ジンオウガは…… それほど強力なモンスターなのですか」
 ギンダマが尋ねる。古龍相手でもワンチャン拾ってきた、という発言とは正反対だが、村長の語るように、渓流の開拓団がジンオウガに全滅させられたとしたら、これから挑む相手はすさまじい力を秘めていることになる。
「わかりませんの」
 村長は首を横に振って応えた。
「ジンオウガの出現は、確かに渓流の開拓団に大きな被害を与えました。しかし、同時に、新種のモンスターの発見ということで、王国書誌隊の応援も駆けつけたと聞きます。ほどなくしてジンオウガの生態や弱点などが明らかになり、ハンターが派遣されるだろうと誰もが考えていたことでしょう。
 ところが、その調査活動中、とてつもなく強力な嵐が渓流に吹き荒れ、開拓団は一夜にして全滅したのです。王国書誌隊もわずかな生き残りを除いてほぼ全滅し、渓流から撤退しました。
 こうして、ジンオウガの調査は中断され、渓流の開拓も頓挫、今に至りますのよ」
 小さく溜息をつき、村長は湯飲みのお茶を口にした。
「……勇者よ、ジンオウガが嵐を呼んだと考えられるか?」
「いや」
 マリソルの問いかけに、ギンダマはすぐに応じた。
「嵐や大風のような自然現象は、いかにモンスターが強力な能力を持っていたとしても、必要なエネルギーの桁が違う。通常は鋼龍と呼ばれるクシャルダオラに風翔龍という別名があるが、これは『天候を自在に操る能力がある』とされるからだ。
 実際、クシャルダオラと遭遇する時には視界がほとんど奪われるほどの豪雨や吹雪に見舞われると言われているが、その反面、実はその能力の有効範囲はせいぜい数十メートルほどだ、とも言われている。
 ドンドルマの最終防衛ラインでクシャルダオラを撃退した時の記録によると、撃龍槍のあたりが視界数メートルの豪雨になっていた時、エリア1のあたりは小雨程度だったという証言があるらしい。
 それを考えると、ジンオウガやクシャルダオラの能力を疑うよりは、本当に何百年に一度かの大変な嵐が渓流を襲ったと考えるほうが妥当だと思う」
「もしかしてですけど」
 ましあが珍しく遠慮がちに口を開いた。
「ジンオウガが渓流に出現して…… また嵐が来るということはありませんか?
 もしそうなら、しばらく渓流に行くのはやめにして、嵐に備えるだけでいいということになりませんかね? 嵐が去った後、ユクモ村ができて、今までジンオウガも現れなかったわけですから」
「あー…… 確かにな…… 嵐の進路がユクモ村を外れていれば、だが」
 マリソルが同意する。
「そうですわね。ユクモ村を建設する時、渓流の開拓団が全滅した嵐の影響を詳細に調べ、その範囲から外れたところを選びましたから、比較的安全かと思います」
「じゃあ、そうしましょう」
 村長の言葉に、ギンダマも頷いた。
「ユクモ村は大雨と暴風に備えるようにしてください」
 ふと、マリソルはギンダマの顔を横目で見た。ましあの言う安全策に彼が乗るのは意外だったのだ。もしかして、どう見ても危険に自ら飛び込んで行っているようにしか見えないと言ったのを気にしてのことか――
「それはそれとして、ジンオウガの狩猟には明日出発します」
「――と、思ったがそんなことはなかったぁぁぁ」
 考えていたことの後半を口に出しながら、マリソルが頭を抱える。れなはであれば真の勇者云々言うところであるが、
「勇者様?人の話?聞いて?危険が?危ない?」
 ましあが強めに異議を唱えるも、ギンダマは動じなかった。
「ちゃんと話は聞いてましたよ。村長の言うように、前回、ジンオウガが出現してから嵐が来るまで、かなりの時間経過があったわけです。王国書誌隊の応援が来たという話だが、どんなに早くてもひと月以上かかるでしょう。
 だとすればやはり嵐とジンオウガは無関係と考えるべきだけど、もし、ジンオウガが嵐を呼んだとする仮説が正しい場合、ジンオウガを討伐することで嵐を未然に防ぐことができる。エネルギーの桁が違うという話をしたが、エネルギーを蓄積する能力を持っていると仮定したら、可能性はなくはない、と、思う。
 だとすると、蓄積が終わる前に倒すことが重要となります。つまり?」
「出発は早いほうが良い」
「明日は早そうですね?」

狩猟 | 20:19:31 | Trackback(0) | Comments(0)
モハポ劇場 遭遇編(下)
「偽者? そんなの名乗らせておけばよい。困るのは本人だ」
「そういうものかなァ」
 ましあが「ご飯おかわりの前に、温泉おかわりです!」と言い残して出掛けたところで、ギンダマは浴場で会った自称ライナスについてマリソルに相談したのだが、マリソルは興味がなさそうだった。焼いたサシミウオの皮を慎重に身からはがしながら、続ける。
「考えても見よ、たとえばの話、勇者ギンダマを詐称したところで何の益がある? ミラボレアス来たんでヨロ! みたいな厄介事が持ち込まれるだけだ。同じように、ライナスを自称などして、覇竜アカムトルムが出たんでヨロ! みたいになるだけだ。
 大概の者はそこで死んで終わりであろう」
「しかし、その偽ライナスはアカム装備を持っていたんだ」
「余計に理屈がわからんではないか。アカムトルムを制する実力があるなら本名を名乗れば良い。逆に偽名など使って功績を挙げたら、ライナスの功績が積みあがるだけで、本人には何も残らない。危険な目に遭う分、損するだけだ」
「……」
 なおも納得していない表情のギンダマに、マリソルは苦笑した。
「それにしても、普段ならこういう理屈を説明するのはそちらだろうに、案外勇者もかわいいところがあるのだな。親友の名を騙られて気分が良くないのはわかるが、ただの同名で、ちょっとのっかっただけかもしれんではないか。いずれにせよ、他人と自身を同一化して、彼自身に得はないのだ。同時に、我らに損もない。
 それよりも、喫緊の課題について考えておくべきだと我は思うな」
「……ジンオウガ、か」
「うむ。勇者が山道でジンオウガに襲われた事実を踏まえると、既にこのあたりは縄張りとして認識されているだろう。放置すれば村人はもちろん、ここを訪れる湯治客にも被害が出るのは時間の問題だ。
 特に湯治客はそもそも治療を必要とする者なわけだから……」
 大型のモンスターに襲われればひとたまりもない、という言葉をマリソルは飲み込んだ。
「どうなるかは想像に難くあるまい」
「まあ、未知のモンスターとは言え、古龍ではないようだし、回復薬用意して物理で殴ればなんとかなるだろ。古龍は概ねどうにもならないモノだけど、これまでの戦いでもワンチャン拾って来たし」
 ギンダマは平然と言ったが、普通であれば病的な楽観主義と思われるのが普通の発言を、マリソルは笑って受け入れた。
「そうだろうそうだろう」
「ごめんくださいまし」
 戸口に立っていたのはユクモ村の村長だった。こころなしか、竜神族の長い耳がやや下がって見える。村長の遠慮がちな雰囲気をマリソルが摘んで捨てるかのように、軽く応じた。
「ちょうど良かった、村長、勇者はジンオウガ撃退を受注する」
「主語が狭いの気になる! 我ら、とかじゃない、普通?」
 すかさずギンダマがつっこむ。
「もちろん我も同行するが、契約の主体を勇者にしておかないと契約金の支払いが発生するでな。あまり細かいことを気にするでない、勇者よ。仲間を信じるのだ」
「もちろん信じてるけどさ、ちょっと気になった。ちょっとね」
「ちょっとであろう」
「うん」
「細かいことは気にするでない」
「そうしよう」
「その調子で報酬の振込先も気にしないでもらえると我としては非常に助かる」
「……」
 黙したギンダマがマリソルの発言を吟味するのに数秒の時間を要した。
「まさか所持金が契約金を下回っ」「あーあー聞こえない!」
 二人のやり取りを中断したのは村長の笑い声だった。普段であれば鈴を転がすような、とでも表現するだろうに、今はこみ上げてくる笑いを抑えることができないという大笑いだった。
「……乙女の懐具合を探ってバラすとは、勇者よ、これ堕落ポイントな」
「ちょ待って」
「よんまんゼニーぐらいで示談にしないこともない」
「それ連続狩猟クエストの4匹ぐらい出るやつでもらえる報酬に匹敵する金額……」
 そこにましあが帰ってきた。
「勇者様堕落ポイントよんまんですか!?」

 村長の笑いが収まるまで、しばらくの時間がかかった。

「あー」
 村長は笑いすぎてまだ呼吸が少し荒い、その横で、ましあが納得していた。
「勇者様のジンオウガ討伐クエスト受注票が貼ってない不具合があることを発見して、大至急修正していただきたいと思ったんですが、仕様でしたか」
「いや、ましあちー、不具合なのだ」
「やっぱり不具合でしたか」
「不具合なのかな……」
 疑問を呈するギンダマだが、マリソルは取り合わず、続けた。
「しかし、明日の朝にはこの不具合は修正される」
 この言葉に、ましあは無言のまま握りこぶしから親指をグッと立てて見せた。
「みなさん…… ありがとうございます。
 しかし、なおのこと、知っておいていただかねばなりません。かつてのユクモ村に何が起きたのか…… お話します」
 村長から憂いが消え、村の指導者として人事を尽くす決然とした雰囲気が取って代わっていた。

狩猟 | 19:49:41 | Trackback(0) | Comments(2)
モハポ劇場 遭遇編(やや下)
 またやっちまった。二重の意味で。
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「お話はギルドのほうからお聞きしています……。まずは皆さんが無事に戻られて本当に良かったです。ごめんなさいね、こちらの調査が甘かったせいで」
「いや、狩場では普段から乱入もありえますから」
 村長の謝罪に、ギンダマはそう言って応じた。
「それより、このままだと、そもそも渓流の安全確保は果たせていないわけですが……」
「いえ、そんなことはありません。まず、アオアシラの分はきちんと報酬をお支払いします。新手のモンスターについては、また別途、ご依頼をさせてくださいまし」
 ギンダマはマリソルから預かった白い毛を数本、手のひらに載せて、村長へ見せた。
「その新種ですが…… この毛を持って帰りました。何かご存知のことはありませんか」
「……ジンオウガ、ですわね」
 すぐに、村長は名前を口にした。
「渓流の奥、霊峰へ続く山地に住んでいて、ほとんど人里に姿を現すことはしないはずなのに…… 前回、その姿が確認されたのはもう百年以上前のことですのよ。
 その時、王国書誌隊はジンオウガを既存の種別に収まらないと結論し、牙竜種という新分類を立てて、記録しましたの。でも、生態の追加調査がはかどらず、ジンオウガの存在そのものが実は何かの見間違いではないか、とする説もあるぐらい」
 百年以上前となれば、ギンダマはもちろん生まれてもいないが、長命な竜人族の村長にとっては、懐かしい一昔前の出来事なのだろう、ゆっくりと、当時のことを思い出しながら話しているようだった。
「……ジンオウガを、村長はご覧になったことがあるのですか?」
「あります」
 村長は穏やかな表情を崩さないようにしたのだろう。ギンダマは村長の眉間にわずかな力が加わったことを見逃さなかった。
「ひとまず、今日はゆっくりとお休みくださいまし。
 ユクモの温泉は打ち身打撲に良く効きますのよ」
 ギンダマはもっと詳しく聞きたい気持ちだったが、おとなしく辞去することにした。村長の過去、それも竜人族の長い人生が、なんでも誇らしげにまたは朗らかに話せるものばかりではないだろう。必要なとき、村長は必要なことを教えてくれるはずだと彼は考えた。それが指導者に必要な素質であり、長らく村長を務める人物には十分に備わっているとギンダマは信じていたし、応急薬で回復しているとはいえ、きちんと体を休めておかなければ今後に響くことを、ハンターとしてのギンダマはよく承知していた。

「あっ、勇者様、お先でーす」
 集会浴場の暖簾をくぐったギンダマに、ましあが気がついて手を振る。既に温泉でさっぱりしてきた様子だ。隣のマリソルは竹筒から温泉ドリンクを一気飲みしているところだった。
「ふー、染み渡るなコレ! ……おや、勇者よ、来ていたか」
「うん。村長さん、アオアシラの報酬は満額くれるってさ。新種のヤツは、別途依頼を出すと言っていた」
「よかった、目的は村の危険の除去であってアオアシラではないとか言い出したら大回転するところでした」
「信用のおける村長さんのようだな。誠意イコールお金はこの世の真理よのう」
 しっかり者の二人であった。
「とりあえず勇者も浴びてくると良い。さっぱりするぞ。我らは一旦、部屋に戻るでな」

 湯浴み姿に着替え、暖簾をくぐったギンダマを温泉の湯気が出迎えた。手桶で頭から湯をかぶり、ざっと汗を流してから、ゆっくりと湯の中に足を入れた。湯気のむこうには何人かの先客がいるようだ。両腕を大きく上に伸ばしながら、ギンダマは先客の様子を伺った。
 程近い左手のほうには、大柄な男が腕を組んでじっと湯に浸かっている。赤茶色の短髪に彫りの深い顔立ちで、右頬から顎にかけて、細いサンマ傷があった。雰囲気から察するに、ハンターだろうか。
 正面奥には、やや細身ながら立派な筋肉の男がやはり湯に浸かっていた。ギンダマがここに来るまでに世話になった荷車を引く大きな鳥、ガーグァの頭部を模した被り物をつけており、顔立ちは見えない。鼻歌交じりにガーグァのおもちゃを三つ、湯の上に浮かべて並ばせ、遊んでいるようだった。
 ガーグァフェイクには若干の近寄り難さを感じ、サンマ傷の男のほうに向かうと、会釈をして、肩まで湯に浸かった。ギンダマがあと三人は入る隙間を空けていたが、しばらくして、サンマ傷の男はギンダマのほうに視線を向けてきた。
「……お前、ハンターか」
「ええ。一度は足を洗いましたが」
 首肯して答える。しかし、ギンダマの声は緊張しており、警戒感を抱いていることが明らかだったが、サンマ傷の男は気がつかなかったのか、妙に打ち解けた笑顔を向けてきた。
「ははは、似たもの同士か。名前は?」
「……ユーシャス」
 ギンダマはとっさに偽名を名乗った。
「そうか、俺はライナス。今は比較的安全で実入りが良くて世の中の役に立つ仕事をしている。
 以前はドンドルマで老山龍を撃退したこともあるが、まあ、昔の話だ」
「ド、ドンドルマで老山龍を撃退したライナスって……」
 ギンダマは驚いて、つい声に出てしまった。
「昔の話だ。失礼する。……明日、早いんでね」
 サンマ傷の男はギンダマの言葉をさえぎると、立ち上がり、湯を掻き分けて立ち去った。その姿を見送り、ややあってから、ギンダマは続きを口にした。
「……お前じゃないだろ」
 続きの言葉は小さく、誰の耳にも届かなかっただろうと思われた。口をへの字に曲げ、しばらくギンダマは黙っていたが、やがて、謎の直感で偽名を名乗ったことを自画自賛する方向に考えを切り替えた。もしサンマ傷の男が事情を詳しく知った上でライナスを騙っているのなら、ギンダマの名も知っているだろう。
 ギンダマが正直に名乗っていたら、おそらくサンマ傷の男は何も言わなかったに違いない。
 ハンター界隈では、同じクエストに出る場合でもお互いに名乗ることはあまりない。野良でクエストに参加した場合、概ね一緒に行動し、メインターゲットをクリアすれば解散する。そこに名前を知っている必要性はなく、腕前のいい相手など、これはと思った者には名前を聞いたり、ハンターの名刺的位置付けのギルドカード交換を申し出たりすることはある程度だ。
 実力が先、名前が後、なのだ。
 そのハンターに、まず最初に名前を聞かれることの違和感が、ギンダマに偽名を名乗らせたのかも知れなかった。

狩猟 | 11:41:33 | Trackback(0) | Comments(1)
モハポ劇場 遭遇編(中)
 クモが出た…! 俺がジンオウガ出せばクモはいなくなるはず。

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 森の中へギンダマを先頭にして進む一行。大きな古い切り株のある開けた場所に差し掛かるあたりで、ギンダマは足を止め、右腕を肩の高さに挙げて、腰を低くした。すぐさま、ましあとマリソルの二人も腰を低くした。
 ギンダマの視線の先には、四本足の巨大な生物が静かに周囲を伺っていた。黄色の大きな角のある頭部には肉食獣の鋭い眼、口元にはずらりと牙が並んでいる。太い前足には角と同じ色の爪があり、蒼い鱗に覆われた体表からはところどころ白い体毛が生えていた。背中には規則正しく並んだ黄色の突起がその体毛に覆われているが、尻尾には鱗と黄色の甲殻だけになっている。
「牙獣種…… に、しては、尻尾が太いか」
「獣竜種にしては前足が立派だのう」
「弱点はやはり頭でしょうか」
 既にどう戦うかを考えているましあの声に、ギンダマとマリソルが顔を見合わせ、小さく頷いた。
「どこか部位破壊して、それを持ち帰ろう。ただし、安全第一で。ペイントは俺が」
「らじゃ」
 ギンダマがポーチからペイントボールを取り出しながら駆け出す。マリソルは右へ、ましあは左へ分かれて走る。マリソルは尻尾を、ましあは頭を狙う方向だ。大型モンスターはギンダマを見咎め、威嚇の咆哮を上げた。大気を震わせる衝撃はギンダマの鼓膜を強かに打つが、顔をしかめながらペイントボールを投擲すると、素早く抜刀した。
 大型モンスターは何やら投げつけてきたギンダマをどう料理するかと思案でもしているようなそぶりで、ゆっくりとギンダマのほうへ頭を向けた。次の瞬間、左前脚が空を裂き、ギンダマの立っていた場所を薙ぎ払った。間一髪、右へ転がって回避したギンダマはその左前脚へ鋭い突きを見舞う。切っ先が甲殻で弾かれ、わずかな傷を残しただけだったが、それで十分だった。少なくとも、手持ちの武器が効かないような相手ではない、ということだ。
 マリソルは尻尾へ双剣を交互に振るいつつ、大型モンスターの注意が向かってきていないか、時々視線を動かしていた。ましあはギンダマを見据える大型モンスターの隙を逃さず、右肩へハンマーを振り下ろした。重い一撃が大型モンスターをたじろがせるが、先程のアオアシラとは比較にならないサイズのモンスターだけに、大きなダメージにはならなかったようだ。
 三方向から責め立てられ、大型モンスターはギンダマのほうへ突進することでその場から逃れた。角を向けて突進してくる大型モンスターの進路から身を引きつつ、胴を薙ぐ。その攻撃に浅いながらも手応えがあったと同時に、ギンダマは小さな痛みを手に感じた。
(……電気か?)
 その疑問はすぐに解ける。こちらに向きを戻した大型モンスターは、低い唸り声を上げながら、全身に青白い光を纏い始めた。前足や背中に生えた白い毛が帯電してパチパチと小さく爆ぜる。かつて雪山で対峙したキリンのまとう雷の色と同じだとギンダマは思った。そして、山道で自分を襲った謎の生物がまとっていた色とも……。
「マリソル、そこらに毛は落ちてないか?」
「あるぞ、数本だが」
「それを回収してキャンプへ向かってくれ。俺もすぐ行く」
「わかった」
 マリソルは双剣を納めると、地面に数本落ちた白い毛を拾い始めた。
「勇者さま、そっち、お願いします!」
「おっけー!」
 ましあは大型モンスターに向かって右から、ギンダマは左から駆け寄る。ましあのハンマーが大型モンスターの頭部を上から襲うのと、ギンダマの刀が逆袈裟に振り上げられるのが同時だった。単純な斬撃であれば、初撃の突きと同じように弾かれていただろう。しかし、ましあのハンマーにより下へ押さえつけられる力が加わることにより、斬撃はその威力を増す。
 大型モンスターの頬を覆う鱗を切り裂き、鮮血が飛沫となる。たまらず大型モンスターは悲鳴を上げるが、反撃に振り回した腕がギンダマを捉え、彼を地面に転がした。脇腹を打ち据えられ、二、三回地面でバウンドした彼の襟首をましあが掴み、そのまま引きずって逃走した。
 その様子を確認して、元来た方向へ移動してたマリソルは渓流の方向へ撤退した。

「大丈夫ですか、結構いいところに入っていたみたいですけど」
「……なんとか、大丈夫」
 応急薬を飲み干して、ギンダマは大きく深呼吸した。
「息が止まるかと思った」
「アバラが折れるまでは大丈夫ですよ」
「折れたら大丈夫じゃないな、確かに。それはそうと、助かりました」
 廃墟のある開けた場所までましあに引きずってもらったギンダマが礼を述べると、ましあはガッツポーズをしてみせた。
「今度は私が謎のモンスターをちぎっては投げする武勇伝をちっぷんに語るのが目標です」
「そりゃあ、楽しみですな」
 ギンダマは頼もしそうに言って、笑った。
「おっと、キャンプへ戻りましょう。マリソルが心配する」
「そうでしたね。急ぎましょう」

 キャンプに戻ると、両脇に二匹のアイルーを抱えたマリソルが立っていた。
「お待たせ」
「お待たせしましたー」
「無事だったか、二人とも。途中、山道でアイルーたちを回収してきました」
「マリソルさん、さすが!ネコ好きの風上に設置したい!」
 目を輝かせたましあが飛びつく。
「……旦那方、アイルー荷車が壊されたと聞きやしたが、何かあったんで?」
 キャンプで待機していた転がしニャン次郎がギンダマに尋ねる。
「初めて見る大型モンスターが現れたんだ。ひとまず、証拠になるかと、毛を数本手に入れて来た」
「それはそれは…… 災難でやしたね。
 アイルー荷車の代車が来たら、アオアシラ回収は任せて、ご帰還なさいやし」
「アオアシラは放っておいてもいいんじゃないか? 危ないぜ」
 実際に荷車が破壊され、下手をすればアイルーたちにも被害が出ていたかもしれないのだ。
「危険があるとわかっていれば、それなりの動きをいたしやす。あっしも手伝いに出るので、ご安心。
 ちょいとアオアシラをかっぱらってくる…… 昔取った杵柄でさァ」
 三度笠を少し下げ、ニヤリと笑うニャン次郎であった。

狩猟 | 03:28:12 | Trackback(0) | Comments(0)
モハポ劇場 遭遇編(上)
 年季の入ったつり橋をおっかなびっくり渡ったギンダマは、振り返って、息の根の止まったアオアシラの姿を確認した。捕獲用麻酔で動かなくなった状態だったとしたら、場合によっては今回の狩猟が無駄になるところだったが、村人の安全確保のための狩猟だったわけで、仮にアオアシラが他の野生動物の餌になったとしても、ギンダマたちが損をするわけではない。
 しかし、つり橋を揺らし、谷を吹き抜ける風が急に冷たく感じ、彼は小さく身震いした。
「勇者さま、早く行きましょう」
「はーい」
 ましあの気づかわし気な声に努めて明るく返事をすると、駆けだす。

 平和な竹林を抜け、崖に面した山道に差し掛かると、一行は足を止めた。そこにはバラバラに破壊された荷車があり、岩陰に身を隠し、震えあがった様子のアイルーが一匹、彼らの前に姿を現した。
「だ、旦那さん方、すみませんニャ、荷車を壊されてしまったので、今、代わりの荷車を取りに戻っておりましてニャ……」
「いったい何があったんだ、怪我はないのか?」
 近寄って膝をつき、アイルーに尋ねるギンダマに、冷や汗をぬぐい、時々しゃっくりのような震えに襲われながら、アイルーは頷いた。
「それは大丈夫ですニャ……。ちょっと我々にもわからニャい、青白い大きな何かが……」
「アレか……」
 ギンダマが、ユクモ村に到着する直前、遭遇した謎の生物のことを思い出す。
「心当たりがあるのか勇者よ」
「うん……」
 ギンダマが立ち上がるのと入れ替わりに、ましあが震えるアイルーに近づき、ぎゅっと抱きしめてその場に座り込んだ。アイルーも震えながらましあにしがみつくようにして通り過ぎた恐怖から立ち直ろうとしているようだった。
「実は、ユクモ村に到着する直前、雨に降られたんだけど、その時、見たことのないモンスターに襲われたんだ。ぎりぎりのところで逃げ延びたんだが、その時、青白い光を見た。
 渓流に大型モンスターの出現が増え、ちょっと前、青白い光をまとう何かが俺を襲い、今、続いて荷車を襲って破壊した。これが別々の何か、ということは考えにくいだろう」
「同じ『何か』であると考えるのが妥当であろうな。
 新種のモンスターだと仮定して、まず帰還するのが一番安全ではある。しかし、何の証拠も情報も持たずに『新種のモンスターの可能性』だけを報告した場合、それがどのぐらい信用されるか、という問題はあると考えるべきだろう。
 ここがドンドルマであれば、勇者ギンダマの言に疑いを持つものは少なかろうがな」
「……」
 ギンダマにとっては痛いところであった。ユクモ村では、村長に常駐ハンターの使っていた家を提供されてはいても、ただの湯治客なのだ。シュレイド城の廃墟で黒龍を打ち破り、老山龍の頭蓋骨を(マリソルの矢で爆弾に点火して)砕いた勇者ではない。
「……そんなに遠くへは行っていないだろう、姿だけでも確認しよう」
「うむ。我も付き合う」
「私も行きます」
 アイルーを抱きしめたまま、ましあが決然と声を上げた。
「アイルーたちをこんな目に遭わせたことは許せません。証拠を必ず持って帰りましょう。例えばその新種のモンスターの死体とか!」
「そ、そうだね……」
「ましあちー、それ、解決しちゃってるからね、何もかも……」
「それはそれで!」

「とはいえ、正体不明のモンスターにいきなり襲い掛かって勝てるという確証はないので冷静になったわけですが」
 言葉とは裏腹に、ハンマーをぶんぶん振り回しながら渓流沿いを歩くましあがつぶやく。
「やっぱり今日明日には危機が迫っていた感じじゃないですか?」
「我もそう思うんよなー、無意識のうちに危機に吸い寄せられているとしか思えない節があるんよなー」
「いやいや…… 偶然だよ……」
 自分で言いながら、説得力がないと思いつつ、ギンダマは否定する。
「ところで、話は変わるが、青白い光をまとうモンスター…… 勇者はどう見る?」
「ここが雪山の洞窟とかであれば、真っ先にフルフルを連想するところだ。
 だが、雷属性のモンスターである可能性は高いと思う。それとは別に、今、例の遭遇時のことを思い出しているんだけど、確かに青白い光を見た。でもその光が何だったのか…… 何かこう、雷光虫のような細かい光をたくさん見たような気もする」
「ふむ…… 古塔の巨大雷光虫のような感じか」
「そうだな。それが一番近い。しかし、荷車を破壊し、アイルーにはっきりと『モンスター』だと認識されているからな…… 大型モンスターであることは確実だ」
「それに荷車の爪痕、そして足跡です」
 ましあが付け加える。
「ほぼ確実に四足歩行、飛竜である可能性は低いですよね」
「確かに」
「そういう奴がいるとして…… 水辺と森の中、どっちの可能性が高いかな?」
 渓流から湖のほとりに向かう下り坂を前に、ギンダマが意見を求めた。
「勇者さまが襲われたのは山道です。森の中かと」
 ましあの言葉にマリソルも頷き、ギンダマは西の森の中に向けて、歩く方角を変えた。

狩猟 | 23:35:41 | Trackback(0) | Comments(2)
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