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Silverbullet

Author:Silverbullet
ルエリ鯖主に7ch/モハフは3鯖
名前の由来は「銀の弾丸」で、通称ギンダマン。
勇者とは究極の器用貧乏である。

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モハポ劇場 渓流編 後半(中)
 ベースキャンプから南に向かう坂を降り、数頭のケルビが水のみ場にしている沢を東に向かうと、崖に面した山道に差し掛かった。
「おおー、なかなかの絶景だな」
 眼下には豊かな森とその間を流れる渓流が見え、それがどこまでも広がりを見せている。今日は少し雲が多いのか、日差しは弱かったが、それでも明るく照らされた緑は、胸の中まで涼しい風を吹き込んでくれるかのようだ。
「この先の坂を降ると、河原に行ける。左側の岩山のほうには竹林があって、特産タケノコがたくさん採れる。たまに山菜爺さんも来るらしい。
 アオアシラの餌場になるとしたら、河原だろう。降りるか?」
『タケノコ!』
 ギンダマの解説を聞き、二人は喜び勇んで岩山のほうに走り出した。例の炊き出しで振舞われた山菜炊き込みご飯のタケノコがよほど気に入ったのだろう。ギンダマも置いていかれないように走り出した。
 岩山の崖には年季の入った縄梯子があり、それをギンダマがよじ登ると、そこには既に食べごろな特産タケノコを発見して周囲を軽く掘り、根本に剥ぎ取りナイフを差し込んでいるマリソルがいた。
「早いな……」
「こういうのはな、速さが大事なのだ。大抵、いいものから持っていかれるでな」
 ぐっ、と音がして、見事な特産タケノコが収穫された。
「なかなかのモノだ……。休憩時間があれば、肉焼き機で素焼きにしてもいいかも知れん」
「なあ…… ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
 何故かましあの姿が見えないが、どこか他の場所でタケノコを探しているのだろうと思いつつ、ギンダマは疑問を口にした。無言ながら、こちらをタケノコを抱えたままこちらを見るマリソルに、言葉を続ける。
 しかし、まっすぐ過ぎる視線からは、つい、目をそらした。
「……弓はやめたのか?」
「双剣にしたのは、我なりの決意の表れと思ってもらいたい」
 一陣の風が竹林を吹き抜け、渓流の水音にも似たざわめきを生んだ。
「人類の未来と引き換えにしても、爆弾背負った勇者を爆破するのはゴメンだからな」
「……」
 ああするしかなかった、と言うのは簡単だ。しかし――
「なーんちゃってぴょーん」
「!?」
 マリソルはタケノコをぶんぶん左右に振って、笑った。
「我がそんな繊細に見えているとは意外や意外、いやむしろ勇者が乙女なのか?
 そもそも、モンスターに接近するのは危ないと思って選んだ弓だったが、さほど上達しなかったという事実が我に重くのしかかったのだ。向いてないことを頑張るほど我は人間ができておらんでな。
 それならライトボウガンという選択肢もあるわけだが、ちょっと性に合わない感じがしたから、なんか振り回せばどうにかなりそうな双剣にしたのだ。
 それだけだから、気にすることはない。そのうちしれっと弓に戻っているかも知れん」
「そうか……」
「そうだとも」
 心から安堵の笑みを浮かべるギンダマに、マリソルは白い歯を見せて笑った。そこへ、ましあが首をかしげながら、何かを握りしめてやって来た。
「あ、勇者さま、ちょっとコレ見ていただきたいんですが」
「どれどれ……」
 ギンダマと一緒にマリソルもましあの手に握られたものを覗き込む。それは石ころのように見えるが、正確には、石ころを半分に割り、何かを詰めて、ネンチャク草の粘着素材で接着したものだ。
『こやし玉』
「ですよね!コレこやし玉ですよね!」
 憤懣やるかたない様子で、ましあは握り締めたこやし玉をわなわなと震わせる。
「ましあちーコレどうしたの」
「裏手のほうで山菜組合の爺さんに出会ったのでアイサツしたら、お主はみどころがある、コレをやろう、とか言って渡してきたんです。どんなみどころだよ!
 ……とはいえ、その場で投げ捨てるのも感じ悪いので我慢して持って帰ってきました」

 こやし玉を握り締めたままタケノコを掘ることはできず、ひとまず一行は竹林を後にして、先程の崖に面した山道まで戻り、坂を降って河原に降りてきた。
「なんかポーチに入れるのも癪じゃありません?」
「河で手を洗おうね」
 マリソルがましあを宥めながら歩き、木々の枝の隙間から渓流の澄んだ水が姿を見せ始めたところで、ギンダマが足を止め、背中の太刀へ手を伸ばした。その様子を見て、マリソルは双剣を手にし、ましあはこやし玉を握り締めたままハンマーに手を伸ばそうとしてやめ、とりあえず身を低くした。
「……いる?」
「いる」
 ギンダマの視線の先、青い毛の熊が渓流の流れの中に四足で立ち、じっと水面を見つめていた。アオアシラはファンゴ類と同じ牙獣種に分類されるが、ファンゴ類が毛皮だけなのに対し、より大型の肉食動物から身を守る必要性から、やや黄色がかった甲殻を腕や脚に持っている。その甲殻の小さなものが頬の辺りも覆っており、その顔に厳つさをまとわせていた。
 次の瞬間、鋭い爪が水面を切り裂き、サシミウオが弾き出されて宙を舞った。サシミウオは弾き出されたそのままの格好で河原に落ち、数回、小さく痙攣して、動かなくなった。恐るべき一撃であった。
 そして、間の悪いことに、アオアシラから見て、サシミウオの丁度反対側に、ギンダマの姿が見えたのであった。
 ゆっくりと立ち上がり、ギンダマに向けて威嚇の咆哮。そして突進!
「来たぞ、三方向で囲もう」
 ギンダマは言いながら、河原へ降りて右へ走る。マリソルはそれに応じて左へ。アオアシラの正面に残ったましあは、まだ武器を構えていなかった。ギンダマもマリソルもしまったという表情でましあを見る。
 アオアシラから見れば、ましあは突然の遭遇にパニックになり、棒立ちになった獲物に見えていただろう。――だがそれは甘かった。
「オラァァァァッ」
 ましあは握り締めていたこやし玉を全力でアオアシラに向けて投擲した。空を裂いたこやし玉がアオアシラの鼻先に命中し、中身を周囲に飛び散らせた。主にモンスターのフンを詰め込んで作成するこやし玉の直撃は、鼻の利くアオアシラにとっては落雷に匹敵する衝撃だった。
 突進中にもかかわらず、立ち上がってえびぞりになったアオアシラはバランスを崩して渓流へ仰向けで倒れ、盛大な水しぶきを上げた。苦しそうにうなり声を上げながら、顔についたものを払いのけ、アオアシラは上流にある滝へ向かって逃げ出した。
 滝の向こうは洞窟になっているのか、アオアシラは落下する水の壁の向こうに姿を消してしまった。
「……効果はバツグンだったようだな」
 双剣を納めたマリソルがアオアシラがもがいたあたりに歩み寄って、つぶやいた。澄んだ水で手を洗いながら、ましあはすっきりした表情をしていた。
「胸のつかえが取れました」
 その時、マリソルが足元からきらきらとした何かを拾い上げた。それは牙獣のナミダと呼ばれる謎の結晶体だった。
「おおっ、牙獣のナミダだぞ、さっきのアオアシラが落としたのだろうか」
「そりゃあ、泣きもするだろうけどな」
 苦笑いのギンダマ。そのギンダマに、はっと息を呑んだマリソルが小声で囁いた。
「勇者よ、もしかして我は天啓を得たかも知れん!」
「ましあさんにこやし玉を供給して牙獣のナミダを量産というアイデアはやめたほうがいいぞ、投球先が君に変わる可能性もある」
「ましあちーはそんな子じゃない! 我にはわかる!」
 こそこそと言い合いをする二人に、ましあが声をかけた。
「どうしたんですか? さあ、地の果てまで追い詰めて討伐しますよ!」
『はい』
 計画はなしになった。

狩猟 | 17:45:30 | Trackback(0) | Comments(3)
モハポ劇場 渓流編 後半(上)
 ハーフタイム長くない?

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 朝が来て、ギンダマの寝床に小鳥のさえずりが届く頃、裏口の柱を軽くノックする音がした。
「起きているか、勇者よ。我らは朝風呂としゃれこんでから広場に行くでな」
「……いってらっしゃーい」
 どちらかというと、ひってらっしゃふぁーいのような、あくび交じりのギンダマのあいさつは気にせず、足音が集会浴場のほうに向かって小さくなっていった。寝床で身を起こし、ユクモ村の工房の製作一覧表を枕元からそばの机に移し、大きく伸びをした。
 少々夜更かしをしてしまったが、ぐっすり眠れたようだ。疲れはかけらも残っていなかった。
 身支度を整えたギンダマが訪れたのは、ユクモ村の工房だった。長くこの村で工房を営んでいるという竜人族の男性(周囲の村人にはモミジィと呼ばれていたが、それがモミ爺、という愛称なのかどうか、ギンダマは判断しかねていた)が彼の姿を見ると、すぐに奥から入魂の一品を運んできてくれた。
「待っておったぞ。ご注文のハンターシリーズ一式、それにこちらも鍛えておいた」
 鉄と毛皮を巧みに利用して動きやすさと防御を両立した、多くの狩人たちがこれを身に着けた歴史のある装備品だ。ドンドルマでもハンターセットからギンダマの狩人生活が始まったのだ。それをわずかな時間、懐かしく思い出す。
「ユクモに伝わる太刀とは一風変わっておるが、それだけに、なかなか刺激的な仕事になったわい。
 感謝するぞ、若いの。ワシも村長も、おぬしには期待しておる」
 モミジィはカッカッカと高笑いすると、椅子に腰かけて、仕事道具の手入れを始めた。

「うわー、勇者さま、なんか懐かしい感じですねー」
 ましあはハンターセットに新品同様に鍛え上がった太刀を背負ういでだちのギンダマを見ると、目を見張った。しかし、それ以上に目を見張っていたのはギンダマのほうだった。
「あの…… ましあさん、その装備は?」
「これですか? 不思議系魔法少女ましあをイメージして作ってもらいました!」
 どすん、と重い音を出したのは、どれほどの量の鉱石をつぎ込んで精製したか想像もつかない巨大な金槌で、持ち手のない方向すべてに凶悪な円錐が備わっている。彼女の姿はかぼちゃのお化けを思い切りかわいらしくした雰囲気で、言葉の通り、かぼちゃ色のとんがり帽子、お姫様のドレスのように膨らんだ肩には大きな口を開けて笑うかぼちゃお化けの意匠、スカートはかぼちゃのようにまるまるとしていて、足元はかぼちゃ色のロングブーツにかぼちゃのつるが絡まっている意匠が小粋であった。
「あ、これが魔法のステッキです」
 どう見ても凶悪な金属の塊としか言いようがないものを指さす。
「どう見ても金槌です。本当にありがとうございました」
「あとはキメ台詞? 魔法の呪文? を考えないといけないかと思ってるんですけど、何がいいですかね?
 一応、今は『縦三縦三ピヨリンパ』みたいなのが第一候補です」
 物騒な魔法の呪文を唱えるましあ。
「魔法の呪文はそれでいいとして、やはり変身後のキメ台詞も大事だと我は思うのだ。
 例えば『逆鱗くれなきゃ、討伐しちゃうぞ★』とかな。そう思うだろう勇者よ」
 背後から声をかけてきたのはマリソルだった。背中に一対の剣を背負い、黄味がかった金属の全身鎧を身に着けている。紫色の乙女装備に弓を背負う姿を見慣れていただけに、ギンダマは少し驚いた。
「なお、クロガネって上位素材使ってない?みたいな疑問を持ったであろう勇者のために解説しておくとだな、関所の係員は『か弱い魔法少女からステッキすら取り上げるんですか?』と涙ながらにハンマー振り上げて訴えたら通してくれたのだ」
「それダメなやつでは……」
「勇者はかよわい魔法少女から魔法のステッキを取り上げるつもりか? 堕落ポイントも辞さないというわけかな?」
「お通りください」
「それでよい」
 素直に賛成したギンダマであった。
「そろそろ行こう……」
 肘でギンダマを小突くマリソル。視線の先には、縦三縦三ピヨリンパと呪文を唱えながらクロガネを自由自在に振り回すましあを遠巻きに眺めながら、徐々にざわつきが生じ始めている村人たちの集まる広場があった。

「リオレイアがいないというのは誤算であったな……」
 渓流のベースキャンプで支給品ボックスを開けながら、マリソルがぼやく。ざわめく広場で村長と話をした結果、例の女性ハンター向け雑誌の記事にあるリオレイア狩りについては、いわゆる『飛ばし記事』であり、季節によってはユクモ村からほど近い孤島にリオレイアが出なくもない、というのが実態だということがわかった。
「考えようですよ、リオレイアがマジで、温泉が飛ばし記事だったらタダでは済まされませんよ」
「我も同感だ」
 ましあの宣言に同意するマリソルの言葉を聞きながら、どんなところか知らないが、雑誌の編集部にクロガネを持ったましあが大回転しながら突入する様子を想像したギンダマは深く頷いた。おそらくまりそるは再び弓を持って火矢を射かけるのだろう。
「とりあえず、渓流に青熊獣…… アオアシラが出て問題になりそう、とのことだったので、ちゃっちゃと討伐しちゃいましょう」
「うむ、人助けをしておいしいご飯を食べてゆっくり温泉につかって徳を高めよう」
「そうだな、俺も堕落ポイントを追加されずに済む」
 ギンダマは村長から預かった「アオアシラ 一頭の狩猟」と書かれたクエスト依頼書を懐に押し込んだ。
「ところで、アオアシラって?」
「青い毛の、まあ、熊なんだそうだ。
 鼻が利くので、一度狙われてしまうとどこまでも追っかけてくるらしく、山菜取りの村人には恐れられてる。普段はハチミツのにおいを嗅ぎつけて、ウマーしてるらしいが、巨体のモンスターがハチミツで生活を維持できるはずはない。
 渓流で魚やケルビを獲っているはずだ」
 寝る前に雑貨屋で購入した書籍に書かれていたアオアシラの項目をそらんじるギンダマ。
「さすがは勇者さま、博識です。つまりロイヤルハニーチャンスもあるということですね」
「お肌つやつやボーナスステージ。理想郷はここにあったのか」
 そんな話をしながらベースキャンプを出発する一行であった。

狩猟 | 23:59:59 | Trackback(0) | Comments(2)
モハポ劇場 渓流編 ハーフタイム(下)
「ドラグライトもカブレライトも、結局、持ち出せずに売り払ったのだ。来る日も来る日も採掘に精を出して集めたのに、だ! その腹いせにちょっと普段できないような贅沢をしていかん法はあるまい!
 だが今では反省している!」
「まあまあ」
 ギンダマは空になったジョッキを椅子代わりの岩に叩きつけたマリソルをなだめるべく、おかわりのハコビールをジョッキに注いだ。と、そこへ、湯上り間もないのだろう、頬を少し上気させた赤髪の女性が現れた。女性向けのユクモの胴着を身に着けており、手元には桃色の巾着袋があった。女性の中では少し大柄な印象だが、それもそのはず、ギンダマやマリソルと同じく、ドンドルマでハンターとして戦っていた歴戦のつわものであり、その鍛錬の賜物であろう。
「あ、勇者さまおひさしぶりでーす」と、ギンダマに手を振り、朗らかな挨拶をする。
「やあ、ましあさん、お久しぶり。元気してましたか?」
 立ち上がり、歓迎の笑みを浮かべるギンダマ。
「元気とやる気なら売るほどあります! ちょっと前のめりなやつだけですけど!
 でもここしばらく、火事場発動状態でガノトトスを乱獲する生活に疑問を感じてしまって、狩猟に身が入らなかったのでだらだらしてたんです。
 気分転換に旅行でもしようかと思ったところに、マリソルさんも同じようなことを考えていたことを聞いて、ご一緒しちゃいました」
 言葉通りの元気さで返事すると、ましあは何かを思い出したように息を呑んだ。
「あっ! 勇者さま、そういえば……」
「ん?」
「やっぱり…… 迫ってるんですか?」
「えっ?」
 ギンダマが何のことか分からずに聞き返すと、ましあが巾着袋の紐を握る手に力を込めた。力が入りすぎて少し震えてすらいる。
「勇者さまがユクモ村に現れるということは、世界の危機とか人類の危機とか温泉の危機とか、そういうのっぴきならないアレが迫ってるんですよね、もう明日明後日にはヤバい! 助けて! みたいな!」
「いやいやいや、俺は昨日ココに来たぐらいなんで、詳しくは分かりませんけど、そんな危機が迫ってる話は聞いてませんよ」
「分かりました、明々後日ぐらいにはもうヤバい感じですね!」
「いやいやいやいや、違います、落ち着こう、まずは落ち着こう。
 マリソルも何か言ってくれ」
「さすがの我も全く懲りずに自分からピンチに飛び込む勇者の性癖にはひくわー」
「そうじゃない!」

 氷晶石でキンキンに冷えたユクモラムネを飲んで若干落ち着いた様子のましあ、既にハコビールでほろ酔いのマリソルとユクモ村や周辺の事柄、あるいはドンドルマでの思い出話をしているうちに、ふと気になって、ギンダマは尋ねた。
「そういえば、いつぐらいまで滞在されるおつもりで?」
「特に決めてないです。とはいえ、しばらく温泉で英気を養ったら――」
 ましあの言葉に、ギンダマは質問したことを少し悔やんだ。自分から再会した嬉しい時間の終わりを確かめるようなものだった。
「狩りに行こうかと」
「――え?」
 ギンダマは予想に反した返答に、思わずましあの顔を見た。
「いえね、そもそもユクモ村に来たのは、先日創刊された女性ハンター向けの狩猟雑誌『ハン☆ハン』でユクモ村が特集されてたって、まりそるさんが教えてくださったからですよ。旅行のついでに狩りに来たわけです」
「……ほほう」
 マリソルの様子を伺うと、さりげなく視線を外し、サシミウオの刺身をつまんで、なにやらアドバイスめいた口調で言った。
「お小遣い稼ぎは魅力的だったが、かといって勇者のことをカケラも心配していなかったかというとそうではないわけで、比率についてとやかく詮索しない器の大きい男がモテるともっぱらの噂だぞ」
「そういうことにしておこう」
 器が大きいに越したことはない。全面的にギンダマは賛成だった。
「ちなみにこれがその記事です」
 ましあが差し出してきた書物をギンダマは慎重に開く。
「なになに…
 『山道をガーグァ荷車で越えたら、おいしい空気にほかほかの温泉でゆったりデトックス★ つやつやの温泉たまご肌になったらリオレイア狩りでゆるふわ愛され雌火竜女子(はぁと) 最強竜姫着回しコーデでこの夏を狩り抜く!』
 『長らく常駐ハンターのいないユクモ村ではクエストよりどりみどり★ デキるハンター女子は賢くお小遣い稼ぎを兼ねてちゃっかり自分磨き(はぁと) ユクモの堅木を伐採する技術を身につけて、ライバルも伐採!』
 なかなかスゲえコト書いてあるな」
「まあ女子の半分はえげつなさでできているので、致し方ないですね」
 ましあが力強く断言し、マリソルはうんうんと頷く。
「……残りの半分はやさしさですか?」
 ギンダマの問いに、二人は首を横に振った。
『がめつさです』
「嘘だと言って!」

 村のお祭り騒ぎも片付けに入り、使い終わった食器等を重ねて水場に運ぶ手伝いなどをした後、ギンダマたちも村の広場を後にした。
「じゃあ、我たちは湯治客の宿舎に部屋を借りてあるのでそっちに帰るでな」
「明日はよろしくお願いしますね。リオレイアなんざ素手で!」
「装備は万全で行くよ」
『おやすみなさーい』
 手を振って二人を見送ると、ギンダマも家に入って寝床に就いた。
「……あれ?」
 ベッドの上で身体を起こす。ギンダマのほうが先にユクモ村に来ていたと思われる状況だが、だとすると、村長が「湯治客の宿舎はイッパイ」と話したのはおかしいのではないか? 空き家が提供されたのは門番の若者に促されるまま村長に挨拶をして元ハンターだと名乗ったからだろうか。それとも、渓流で狩りをしている間に、ユクモ村を発った湯治客がいて、そこに入れ替わりで彼女たちが案内されたのだろうか。
 再びベッドに身を投げ出す。
「ま、いいか」
 少なくとも村長が自分に害意を抱いているようには思えない。あれこれ詮索するよりも、素直に好意を受けていたほうが、彼の性に合っていた。

狩猟 | 12:00:01 | Trackback(0) | Comments(0)
モハポ劇場 渓流編 ハーフタイム(上)
 前後の脚を縄で縛られ、太い棒にぶら下げられた状態のドスファンゴが村に運ばれてくると、たまたま居合わせた村人は目を丸くして、そばを歩くギンダマとその獲物を交互に見ては何事か囁きあっていた。
「あらあら、こんなに早くお願いを聞き届けてくれるなんて……。本当に助かりましたわ。ギンダマさん、ありがとうございます。村を代表してお礼を致しますわ」
「いや、それほどのことは……」
 賞賛を惜しまない村長に、若干恐縮しながら、ギンダマは答えた。不意を討ったにもかかわらず、牙でぶっ飛ばされたり、応急薬を飲むところを尻に突進されたりと、あまり格好の良い戦いぶりではなかったからだが、村の人々はあずかり知らぬこと。村長がかつて常駐ハンターの使っていた家を提供した話のほうが先に広まっているようだった。
 その後の村はちょっとしたお祭り状態になった。村の広場に祭壇のようなものが設けられ、その上にギンダマが狩ったドスファンゴがお披露目されるカタチとなった。なんでもユクモ村では稀に見る大物だとのことで、老若男女問わず山仕事や畑仕事の合間に広場に立ち寄って感嘆の声を上げていた。
 門番の若者などは「最初に会ったときからタダモノじゃないと思っていたぜ。オイラのライバルと認めてもいい」などと言い出す始末であった。
 そうこうしているうちに、どこからともなく屋台が出現し、アイルー族が目を回しそうな忙しさながら、慣れた手つきで手際よく山菜を刻み、猪肉を切って鍋に放り込み、時々味見をしながら、できあがった汁物を村人や湯治の客に分け隔てなく振舞っていた。
 大きな獲物が出たときは村の主な備蓄食料である干し肉を入れ替える意味もあり、こうして無料の郷土料理、ユクモ汁が振舞われるのだそうだ。
 ここしばらく、この振舞い汁がなかったとのことで、村人の喜びようは若干ギンダマの腰が引けるほどのものだった。彼もにこにこがおの村人に渡されたドスファンゴ丼(ギンシャリ草の実を炊いたものにドスファンゴの肉を焼いて乗せ、秘伝のタレをかけたもの)を手に、村の広場にある浅い湯だまり、通称ユクモの足湯の岩に腰掛けた。
 さっそくいただくと、ほくほくのギンシャリにタレがからんだだけでもうまいのに加え、歯ごたえがあり、噛むほどにうまみの出る肉と秘伝のタレが作り出す絶妙な味わいがすばらしい一品だった。
「これはウマいや」
 狩り中に携帯食料を食べてはいたが、それとは比べ物にならず、ぺろりと平らげてしまった。
「いい食べっぷりだ。渓流天然水で潤すがよい」
「あ、これはどうも……」
 横合いから差し出された竹筒に手を伸ばしながら、持ち主の顔を見ると、見知った顔であった。
「マリソル……」
「ごはんが貰えると聞いて飛んできました」
 褐色の滑らかな肌と黒髪、瞳はごく稀にしか発見されない高純度のマカライト鉱石よりも蒼く透き通り、初対面で南の海に浮かぶ小さな島を治める王国の姫君だと紹介されれば納得しても不思議はない印象がある。
「……いやいや」
 あやうく村人の前で「こんな山奥まで?」と言ってしまいそうになるのをこらえ、その言葉を飲み込んだものの、代わりに気の利いたセリフは出てこなかった。
「ふふ、さすがに偶然だ。でもゴチになったので間違いでもない」
 ギンダマの隣に腰掛けるマリソルは、ユクモの胴着に雰囲気はにているが、明らかに異なる素材を使用した軽装の鎧と胴着を身に着けていた。
「話すと長くなるので簡潔に言うとだな、例の一件以降、ドンドルマはますます発展して住みやすくはなったが、パローネキャラバンだとか狩頼人だとかいろいろ設備や制度が増えたりするのと反比例して面倒ごとが増えてしまったのだ。根がぐーたらな我としてはもう少し静かな場所に移ってのんびり過ごしたいと、こう考えたわけだ。
 そんな折り、ましあちーもちょっと生活に新風を入れたいということで、二人で検討の結果、いろいろリゾート的な候補はあったものの、また勇者が悪ガキにいじめられていないかと心配してはるばる隣の大陸までやってきたというわけなのだ」
 そこまで話すと、くっ、と小さなうめき声を上げながら、芝居がかった仕種で目頭を押さえるマリソル。その様子に気圧されて、ギンダマはマリソルの語りに登場したもう一人の友人、ましあについて質問しようとした言葉が喉まで来ていたのだが、引っ込めた。
「我、健気!仲間想い! そう思うだろう勇者よ!」
「あ、ああ……」
 ギンダマが促されるままに首肯すると、マリソルは一転、にんまりと笑みを浮かべて言った。
「そう思うなら、なんか野菜的なものも食べたいのでいちばんいいやつを頼む」
「……相変わらずで安心したよ。で、そのましあさんは?」
 がっくりと肩を落とすも、苦笑交じりに姿勢を元に戻すと、先程飲み込んだ言葉を口にした。返事は至って簡潔に「お風呂」とのことだった。

 屋台からギンダマが運んできたペピポパンプキンの甘辛煮を肴に、マリソルはハコビールをちびちびやりながら道中の土産話(あるいは愚痴)をギンダマに語っていた。
「あの乙女装備は気に入っていたのだが、材料にエールナッツやドスビスカスを使っているので、生態系保護のためとかなんとかで、持ち出しができなかったのだ。
 他のものもいろいろ申請したのだが、持ち出し申請と不許可書類の応酬に嫌気がさしたのでほとんど持ち物は処分してしまった。あれはどうにかならんのか。
 あれらにどれほどの金と素材をつぎ込んだか… ブツクサ…」
「俺も処分したから気持ちはわかるが、装備が充実したハンターがそのまま移動してしまうと、移動先への影響が大きいからな。各地で新人ハンターが腕を上げ、それと共に工房も技術を獲得するように考えているのだろう。
 技術や知識は、あっという間に失われるし、そうなれば取り返しがつかないから。
 ……しかしまあ、しばらくは遊んでいられるだけのお金になったんじゃないか?」
「なったことはなった。
 しかし、我の欲しているのはしばらくなどではなく、この先ずっと遊んでいられるだけの金なのであって、それに比べればたいした金額ではない」
 スケールが大きいのかよくわからない野望のような何かを断言するマリソル。
「それに、カネは天下のまわりモノというではないか」
 なんだか雲行きが怪しくなってきたぞ、と思いながら、ギンダマは訊いた。
「具体的には」
「……ちょっと ……つやつやお大尽…… 的な、生活をした」
「なるほど。で……」
「みなまで言うな」
 さらに詳しく聞こうとするギンダマに手のひらを向けて強い回答拒否の意志を示し、マリソルは視線をそらして残りのハコビールをぐいっと飲み干した。

狩猟 | 12:14:48 | Trackback(0) | Comments(2)
モハポ劇場 渓流編 前半(下)
 平日のみ連載のつもりだったが…

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 ベースキャンプの坂を下り、沢を抜けて南に向かうと、切り立った崖にはさまれた広い野原に出た。南向きで日当たりが良く、沢から流れてくる水が作る小川が流れている。野心的な指導者がいたのだろう、ここに新しい村かキャンプを作ろうとしたとしても不思議ではないが、それは夢破れたようだった。
 野原の中央部には大きな建物が傾き、半ばつぶれて、朽ちていた。見れば、小川のそばには放棄されたのであろう、耕作地の跡が見て取れた。それは少なくとも十年、ともすれば数十年の昔に放棄された集落に見えた。
「……」
 その眺めに一抹の寂しさを感じたギンダマは、しばしそこに立ち尽くした。ユクモ村の村長は発展や拡張をあまり望んでいないように感じた。ただ、現在がそう見えるだけであって、過去、もしかすると、より豊かな生活を求めて、発展のために努力した時期があったのかもしれなかった。それが失敗したのだろうか。
 クロマツの教訓、その話を思い出すが、ここはさほど海に近いわけではない。あの教訓を村長がそのまま体験したと考えるのは少し無理があるだろう。
 その時、ギンダマの眺める廃墟の向こう、南の空に飛行船が浮かんでいるのが見えた。
「おっ、こいつはラッキーだ」
 ギンダマは南に走ると、飛行船に向かって大きく手を振って見せた。観測隊の飛行船であれば、こちらの動作に気が付いた時に発行信号で近隣の大型モンスターの位置を知らせてくれる。
 ただ、必ずしも観測隊がこちらに気が付く保証はない。
 しばらく手を振って、今はほかのものを見ているのかと、ギンダマがあきらめようかとしたタイミングで、発行信号が見えた。
「東か……」
 発行信号を読み、ギンダマはもう一度手を振って返礼してから、支給品ボックスから手に入れた地図を広げた。この野原からは、ギンダマが来た方向である北、それから崖沿いの山道につながる北東、発行信号の示す東、そして南東へ進む道がある。
 ギンダマは東へ進む道を目指して走り出した。

 観測隊の飛行船の上には、舵を握りながら、双眼鏡で遥か前方にある山脈をつぶさに観察する船長と、その隣で双眼鏡を首から下げ、発光信号の操作パネルから顔を上げたフードの男がいた。先程、ギンダマにドスファンゴの位置を知らせたのは彼だった。
「どうですか、船長。周辺にはドスファンゴぐらいしか見えませんでしたが」
「うーん、こっちも今のところ収穫はなしだな」
 双眼鏡を降ろし、船長が答える。
「たしかに、霊峰が分厚い雲で覆われているが、季節的に不思議じゃないしな……。
 もうしばらく様子を見ようか。お前は引き続き地上のほうを頼む」
「了解」
 船長は伝声管の蓋を開け、そこに報告した。
「今のところ異常なしです。引き続き観測を続けます。
 地上の渓流エリアにドスファンゴがいるようですが、これの狩猟にはもうハンターらしきものが出向いているようです。どうぞ」
 しばらくの間をあけて、伝声管の向こうから、竜人族の老人が返答してきた。
「よろしい、引き続き観測を続けよ。……霊峰の古龍を発見するのが最優先であることを忘れるな」
 返答は一方的な伝声管が閉じる音で締めくくられた。暗に「地上のことなど構うな」と言っているようだが、そもそも観測隊の役割は広く情報を集め、適切に知らせることであって、自分の都合で優先順位を決めるべきではないと、船長は考えていた。
 伝声管をこちらも閉めて、溜息をついた。
「ツイてねえぜ、こんな面倒なやつァ、久しぶりだ」
「嵐を操る古龍、本当にいるんでしょうか」
「うーん、どうだろう……」
 フードの男が地上を注意深く見渡しながら、船長に疑問を投げかける。
「この地方には竜巻とか豪雨による災害が数十年に一度のペースで起きているけど、ほかの似たような地域と比べて特に多いというわけではない。多い地域はもっと多いし。
 とはいえ、伝承には嵐の中に純白の龍を見た、というものがあることも事実だ。嵐の中、雷光を反射して白く輝いたクシャルダオラじゃないかとする学者もいるし、別のもっと強力な古龍だと考えている学者もいる。
 百聞は一見に如かずと信じて俺たちは観測にでるわけだが、昔に一見した記録をもとに学者連中があーでもないこーでもないとモメてるから」
「なるほど……」
「あれ、ちょっと風向き変わってるな……」
 話を中断して、船長が舵を調節した。風を正確に感じ取り、舵を調整して一ヶ所にとどまる技術は一朝一夕で身につくものではない。船長は安全第一で、じっくり観測を進めるつもりだった。
 少なくともあと丸一日は、観測を続けられるだけの燃料や食料を積んでいたし、少し山道をあることになるが、山腹に着陸すればユクモ村で必要なものを補給することもできるはずだ。

 東にやってきたギンダマは、注意深く立ち木の陰に身を隠しながら、油断なく周辺をうかがっていた。すると、遠くに見える巨大な、両腕を広げた大人十人でも周囲を囲めそうにないほどの大きさの切り株のそばに、大猪の姿が見えた。
 一般的なブルファンゴの倍以上はある大きさで、牙も天を突かんばかりに発達し、体毛は年を経てうっすらと茶色が褪せ、白いものが増えている。
「こいつは大物だ」
 ギンダマはドスファンゴが地面のにおいを嗅ぎながら、こちらに背を向けるタイミングを待った。そして機会が訪れたと見るや、木陰から飛び出して森の中を駆けた。
 落ち葉が堆積し、あるいはそこにやわらかい苔の生えた地面は、ギンダマの疾駆にも反発の声をあげなかったが、さすがに駆け寄ってくる気配まで消してはくれなかった。また、その必要もなかった。
 ドスファンゴがギンダマの気配を察知し、向き直るその瞬間には、ギンダマは背中の太刀を抜き放ち、大上段から振り下ろさんとしていた。

狩猟 | 10:52:05 | Trackback(0) | Comments(0)
モハポ劇場 渓流編 前半(上)
 今回は「やや下」というのはない方向で考えています。
 以下、本文。

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「本来は、特産キノコや特産タケノコの採集から慣れていただくんですけど、ギンダマさんは経験あるみたいだし、問題ないですわね」
 村長は微笑んで、手元の書物から一枚の紙を抜き出した。池のほとりで村長が開いていた書物は、ユクモ村の村人からの報告や要望などだった。その内容を把握して、解決するための策を考えるのが村長の務め。解決策がハンターへの依頼になることは良くあることであった。
 ユクモの鬼門番の父親は腕利きの大工であり、またきこりでもあるが、木々の様子を見たり、山菜を取りに出たとき、大猪に遭遇してかなり危険な目にあったとのことであった。
「ブルファンゴぐらいなら良く見かけるのだけど、ドスファンゴまでとなると、少し気になりますわね。村人に追い払える相手ではないし。
 ギンダマさん、よろしくお願い致します」
 クエスト依頼書を受け取り、ギンダマは頷いた。

 ユクモ村からさほど離れていない地域、渓流と呼ばれる場所に、ベースキャンプが設置されていた。ギンダマが支給品ボックスに近寄ると、その遥か向こうからごとごとと何かが転がる音が聞こえてきた。
 ベースキャンプは山の中腹にある窪みにあり、ここに来るには急な坂道を登る必要があった。転がる音が近づいてくるのは不自然であり、ギンダマは怪訝に思って視線を坂道のほうに移した。
「ニャーニャニャ~」
 コブシの利いた歌を歌いながら、横倒しになったタルの上で足を動かすことでタルそのものを回転させ、これを推進力にして坂道を登ってくるメラルーがいた。ユクモの胴着とセットになっていたつば広帽子と同じデザインの小さなもの、ユクモの胴着に似た布を合羽のように羽織ったメラルーで、口元には草の茎を加えていた。
「おっ、旦那さん、お早いお着きで」
 そのメラルーはギンダマの横までタルを転がしてきたかと思うと、ひょいと飛び降り、ギンダマの前に立った。そして、つば広帽をサッと脱いで小脇に抱えると、少し腰を落として、左手をこちらに突き出し、肉球を上にして見せた。
「お控えなすって」
「……えっ」
 ギンダマが戸惑いの声を出すと、そのメラルーはしばしの間を空けて、もう一度、同じことを述べた。
「お控えなすって」
「お、おう……」
 ぎこちなく、戸惑いながらギンダマが一歩下がって、とりあえず両膝をついて正座の姿勢を取り、手を膝の上に乗せると、メラルーは小さく頷いた。
「お初にお目にかかりやす、樹海は朽ちたご神木通りの生まれ、こそ泥稼業に嫌気が差して、各地を旅するメラルー族、姓名の儀は『転がしニャン次郎』と発しやす。
 以後、お見知りおきを」
「これはご丁寧に…… ギンダマと申します」
「旦那さんの荷物が多くなってくると、もっと採集できるのにあきらめなければいけないことが多々あるとお聞きしておりやす。そこで、あっしが旦那さんの荷物を預かって、拠点に運ぶタル配便サービスを承りやす。
 ただし、何度も往復するのは身体の小さなメラルー族の悲しさ、無理でごぜえやすので、クエストあたり一度きりとさせていただきやす」
 実に便利な話であった。だが、気になることもある。
「……ちなみに」
「おっと、あっしはメラルーですが、こそ泥稼業からは足を洗いやした。お預かりした荷物はすべて、確実にお届けしやす」
「代金のほうは……」
 ギンダマが気になっていたのは代金だった。ハンターは通常、現金をクエストに持って出ない。買い物をするような場所がないからだ。ニャン次郎はギンダマの言葉を聞き、じっくりと噛み締めるように味わってから、告げた。
「お代はハンターギルドからまとめていただいておりやすので、旦那さんは無償で」
「まじすか」
 その後、ベースキャンプで待機していること等、タル配便の業務に関する細かい事項をニャン次郎がギンダマに説明すると、彼は納得し、喜び勇んで出掛けて行った。
 その後姿を見送って、ニャン次郎がひとりつぶやいた。
「メラルーのあっしを最初から疑わないとは…… ありがてえ……」
 野生のメラルー族がかっぱらいのようなことをすることは広く知られており、それゆえの苦労が絶えないのであろう。それだけに、ただのお人よしであっても、疑われないことが嬉しく感じるのであった。

「薬草!ネンチャク草! 石ころ、からの素材球!」
 ベースキャンプから程近い沢で、ギンダマは素材を集めていた。手際良く、調合して狩猟に使える道具にまとめてしまうのも手馴れたものだ。沢を離れ、崖沿いの山道に差し掛かると、抜け目なくキノコの群生地を見つける。
「特産キノコ!アオキノコ! からの回復薬」
 そこへ運悪く通りかかったケルピを見つけると、背中の太刀を抜いた。あっという間にケルピをしとめると、手早く捌いていく。
「毛皮からの~ホワイトレバーからの~生肉からの~」
 どん、と携帯用肉焼きセットを取り出したギンダマが火を熾す。
「上手に焼けましたァ!」

「ここまで聞こえてやしたぜ」
 やがて鼻歌を歌いながら戻ってきたギンダマに、ニャン次郎は一応、知らせておいた。
「ごめんごめん、久しぶりでちょっと楽しくなってしまってね」
 ポーチぎっしりになった細かな素材、それに丁寧に巻かれた数枚の毛皮など、ギンダマが預けたいと申し出た荷物はニャン次郎が受け取ると、次々にタルへ収納した。
「ああ、特産キノコとかはギルドの精算がありやすので、納品ボックスへお願いいたしやす」
「便利になったなァ」
「確かにお預かりいたしやした。それじゃ、ごめんくだせェ」
 ニャン次郎は荷物の詰まったタルを蹴り倒すと、その上に飛び乗り、ギンダマの前に現れた時と同じように、タルを転がしながら去っていった。あんなに転がして大丈夫かと思わなくもなかったが、まあ、大丈夫なのだろうと、ギンダマは楽観的だった。
「さて……」
 ギンダマの表情が少し変わった。これから狩猟という戦いに出るハンターの顔であった。

狩猟 | 12:34:56 | Trackback(0) | Comments(0)
モハポ劇場 温泉編(下)
 歴代モンハンの村長さんの中ではユクモ村の村長がサイコーだと思うんですよね。最終クエストで急にドSになるけど。だがそれがいい的なアレ。
 以下、本文。

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 浴場の番頭さんは粋な前掛けにねじり鉢巻のアイルーだった。
「おっ、旦那さん、コチラは初めてだね。そこの脱衣所でユアミスガタに着替えてお湯へどうぞ。
 混浴だから全裸はのーぐっどですぜ。お風呂上りには温泉ドリンクをごひいきに!スキルも発動!」
 実に気風の良い番頭さんであった。
 ユクモ胴着からユアミスガタ(男)に着替えたギンダマはざっとかかり湯をしてから、ふわふわと湯気の立ち上る湯に滑り込んだ。さらりとした肌触りの湯はほとんど匂いがなく、温度も申し分ない加減であった。
「ああー……」
 全身の筋肉が緩やかにほぐれていき、このまま湯に浮かんで眠ってしまいたいほどの安らぎを感じる。ただ、以前聞いた「風呂に入っているうちにちょっと寝てた、みたいなことは稀に良くあるが、あれは寝てるんじゃなくて気絶だから、最悪死に至る」という話をどうしても忘れることが出来ないギンダマは、閉じていた緑色の瞳を開けた。
 何か巨大な生き物の頭のような形をした岩の口の部分からこんこんと流れ出る湯を眺めながら、これからどうするか、ということをぼんやりと考え始めていた。ドンドルマを引き払う時、ほとんどの装備や素材は大陸間の移動に邪魔になるということで売り払い、そのお金も大半はギルドの規定やらなんやらのカラミで手元に残っていなかった。ライナスの手紙にあった「ハンターの仕事をすればしばらく生活には困らない」というのは、そのあたりの事情も踏まえてのアドバイスと思われた。
 別にハンター稼業がいやなのではない、ギルドに狙われているわけでもない、それならば、何故、旅立ったのか? それは彼自身にもよくわからないことだった。

 まもなく夕日が山の向こうに沈む様子を、村長が静かに眺めていた。そこへ、さっぱりした様子のギンダマが近づいてきた。
「こんばんは」
「あら、ギンダマさん、こんばんは。お湯加減はいかがでした?」
「すばらしいお湯でした。噂以上ですね」
「それは何よりでした。よろしければ、どうぞ」
 村長は赤い布を敷いた長椅子の上で、座る位置を少し左にずらした。そこへ一礼したギンダマが腰掛ける。
「港町で、この胴着を着ていたら、皆、ユクモ村に興味津々のようでしたよ。
 山道を整備したら、もっとこの村も大きくなるんじゃありませんか。ユクモの湯はそれだけの価値があると思います」
「あらあら、まるで商人さんみたいね。でも、そんなこと、あなたの本心ではありませんでしょう」
 村長はギンダマの質問の意味を完全に把握しているようだった。
「でも、そうね、ギルドにハンターの派遣をお願いしているのになしのつぶてというのが、嘘だというのはギンダマさんにはわかっているようね。だから、おあいこかしら」
 長命な竜人族は、ただ長い時間を無為に過ごす種族ではない。過去の経験を記録に残し、伝承し、次の変化の予兆を把握して対策を取ることのできる聡明な種族だ。それゆえ、人類の拠点の長を勤めることが多く、事実、竜人族の治める拠点が短期間で壊滅するような事態にはほとんどならない。
 この若く美しい竜人族の女性も、その例に漏れず聡明で、ギンダマよりも少なくとも数倍から十数倍の年月を生きていると見て間違いないだろう。竜人族の寿命とは、それほどのものなのだ。
「上の浴場は、集会浴場と呼んでいて、少なくないハンターのお客様向けに、ギルドのクエスト受付を設置しておりますの。つまり、こう見えて、ユクモ村はギルドとは強いつながりを持っておりますのよ。それを見て、ギンダマさんは私の嘘を見破ったのね」
「ええ。常駐ハンター派遣の要請はしていないと思いました。要請があれば、派遣されているはずです」
 自信を持って断言するギンダマだったが、村長は首を横に振った。
「半分はアタリ、半分はハズレ。でも、それは良いことだと思いますの。
 ギンダマさんは見たこと聞いたことを正確に理解して、真実にたどり着くことの出来る方のようね。そして、見ていないこと聞いていないことを、思い込みで補わないことの出来る方…… 私はこちらのほうが希少な才能だと思いますのよ」
「……」
「クロマツの教訓、というお話をしましょうか。
 昔々、海岸沿いに村を作ろうとした人々がおりました。荒い海で漁をするには不向きでしたが、灌漑に便利な川と平坦な荒地が広がる場所だったからだそうよ。人々は海風が強く、潮気で作物が弱ってしまうのを防ぐため、潮気に強く、荒れた土地でも育つクロマツを海岸沿いに植えたの。
 クロマツは人々の期待した通り、すくすくと育って、海風を防いでくれて、そのおかげで、村は広大な畑の開墾に成功して、とても豊かになったそうよ。でも、その村は、今では廃村。畑も荒地に戻ってしまったのよ」
「……急な話ですね」
「そう、急な話よ。
 クロマツは潮風を防いで、とてもいい環境を作ってくれた。そのために、様々な植物や作物、それらを食べる動物たちが集まって、とてもにぎやかになった。そのにぎやかな命のざわめきの中に、クロマツの子がいないことに、誰も気がつかなかったの。それが悲劇の始まりだったのね。
 人々が植えたクロマツが寿命を迎えて枯れた時、クロマツのように潮風に強い植物はいなかった。あっという間に海辺の防風林は全て枯れてしまい、畑の作物も全滅した。蓄えがなかったわけじゃないと思うの。でも、誰もそこには残らなかった。
 私はこれをクロマツの教訓、と呼んでおりますの。
 ……あら、すっかり日が暮れてしまったわね。お引き留めしてごめんなさい。ギンダマさん、ゆっくりおやすみになってくださいね」
 村長は優雅に立ち上がり、広場から立ち去った。その後姿を見送ったギンダマも広場から立ち去り、村長に提供された家へ戻った。
 教訓というからには「だから……」と結論があるものだが、そうではなかった。だが、結論を尋ねるのは野暮だと、彼は考えた。結論は明確だったからだが、しかし、彼の考えを村長に話したら、きっと「半分はアタリ、半分はハズレ」となるような気がしていた。
「でも、それでいいのさ」
 そう独り言をして、ベッドに寝転んだ。それで良かった。彼の明日の予定が決まったのだから。

狩猟 | 12:12:12 | Trackback(0) | Comments(2)
モハポ劇場 温泉編(中)
「有名というか、あれだよ、同郷の者だからな。知ってるさ。
 カリスマデザイナーになるんだってユクモ村を飛び出して、港町に出て修行してるんだけど、商売もやりたいからって、自分の店で着物を売ってるんだ。素材とかはユクモ村から仕入れて、堅実にやってるよな」
「誤解を招く表現があったと思うが」
 堅実、という表現にひっかかり、ギンダマが少し疑義を挟むが、若者は気にしないようだった。
「パチもの売るよりましさ。少なくとも、ここで胴着を作った経験は充分あるんだし。
 でも、そうかあ、あいつもまだ自分のデザインの着物を売るほど、順調じゃないってことだよな。
 将来設計って難しいわホント。ははは」
 若者は乾いた笑いと共に再び歩き出した。鍛冶屋と雑貨屋の間にある石段を登ると、広場とそれに面した数軒の住宅、岩を環状に並べてつくった小さな露天の温泉、湧き水が小さな滝になって注ぐ池が見えてきた。
 その池の前には、赤い布を敷いた長椅子がおいてあり、藤色の着物を着た竜人族の女性が腰掛けて、書物に目を落としていた。
「ここが村の広場だ。あの池のほとりに座っているのが村長さん。
 とりあえず村長さんにご挨拶しておいて損はないぜ。ギンダマさんの湯治が長くなるなら、なおさら」
「ありがとう、そうするよ」
「じゃ、オイラは鳥居に戻るぜ。あとは村長さんが教えてくれるだろうしな。
 気が向いたら鳥居に来てくれよな。大抵そこで門番をしているから。何しろオイラはユクモの鬼門番と恐れられる男だからな。あまり留守にもできねえ」
 そういい残すと、道案内を買って出た時と同じ有無を言わさぬ雰囲気で、若者は立ち去った。
 鬼門番とは大きく出たが、秘境の温泉地ともなると、ガラの悪い客やいかがわしい商売の拠点にしようと考える裏社会の者も現れるのかもしれない。村人と湯治客の安全と、その結果として生じるユクモ村の評判というものが、門番という仕事にかかっているのかも知れなかった。
 ギンダマが竜人族の女性に近づくと、彼女は膝の上の書物から視線を上げ、ギンダマのほうを見た。細長くとがった耳、ほとんど開いているかどうかわからないほど細く切れ長の目、淡い化粧をつややかな肌に乗せた美人であった。
 書物を閉じ、ギンダマに微笑を向けた。
「あら珍しい。ハンターさん?」
「はじめまして、ギンダマと申します。ユクモの湯が大変よろしいとお聞きしまして……。
 まあ、ハンターをしていたこともあります」
「そうでしたの、ごめんなさいね、私ったら、早とちりして。ギンダマさん、ゆっくりお湯に浸かって、疲れを癒してくださいまし。
 ここしばらく、村に常駐のハンターさんがいなくて、山道も物騒な話を聞きますの。ギルドに派遣をお願いしたのだけど、なしのつぶて。やっぱり、都会がいいのかしら。
 あ、愚痴になっちゃったわね」
 口元を隠し、ほほほと笑う村長。だが、背中に太刀を背負ったギンダマを見てただの温泉客と思うものはいない。どう見てもハンターではあった。
「今、湯治のお客さん向けのお部屋がちょっとイッパイなので、昔、村のハンターさんが使っていたところをお使いくださいまし。広場から見える、そこのおうちですのよ」
 村長の指差す先には、一軒の家があった。こぢんまりとしているが、ギンダマ一人が逗留するのに充分な広さがありそうだった。話から察するに、しばらく空き家だったと思われるが、それにしては屋根の瓦もしっかりしており、壁にも綻びは見えなかった。

 礼を述べて辞去したギンダマが提供された家に入り、荷物を置いて、ベッドに腰掛けると、遠くからかすかに滝の音が聞こえてきた。玄関と向き合う位置にある裏口は、板葺きの廊下に繋がっており、その廊下から見下ろす谷間に流れる渓流から、その音が聞こえてきているようだった。
 玄関も裏口も、厚手の布で織られた暖簾で仕切られており、施錠できるドアで仕切られたドンドルマのような都市とは違う生活を目の当たりにすると、村が村であり続けるのと対照的に、都市が周囲に広がり発展して行くのか、その違いに驚く。
 暖簾それ自体も精緻な幾何学模様で彩られ、豊かな自然の恵みを享受し、それを生活の中に昇華する技術の深さがあることを考えると、その違いは技術によっては決まらず、おそらく人々の考え方や文化によるものであろうと思われた。
 そして、人々の考え方の中心にあるのは、その拠点を治める指導者の考えなのだろう。人々は考えを同じくしない者と同じところに生きることができない。それは人類同士の戦いがなくならないことが証明している。
 ユクモ村が秘境の温泉地であることは、すなわち、あの村長がそのように望んだ結果なのだろう。少なくとも、門番の若者が言うような『山に入ったほうが話が早いから農場の開拓が進んでいない』のではない。ユクモ村周辺で採集できる食料や資源で維持できる範囲以上にユクモ村が発展することを望んでいないのだ。
 もし発展を望めば、おそらくユクモ村は秘境ではなくなる。それはユクモ村がユクモ村ではなくなることを意味するのだ。
「さて……」
 ギンダマは立ち上がると、裏口の暖簾をくぐり、廊下を右手に進んだ。やがて見えてきた階段を登ると、そこは浴場だった。暖かく湿った空気に芳しい木の香りに満ちた浴場には、見覚えのある掲示板があった。ギルドのクエストボードだ。
 見れば、クエスト受付カウンターに受付嬢も座っており、その横では一段高い座に竜人族の老人が座っており、大きな瓢箪からお猪口に中身を出して、ちびちびやっていた。
「おっ、チミ、ちょっと来なさい」
 老人がギンダマの姿を見て、手招きした。ギンダマは迷ったが、ここで逃げ出しては、いろいろとややこしい話になりかねない。
「何か……」
「チミはハンターの経験があるようじゃの。名前は?」
「……ギンダマです」
「そうかそうか、ま、ゆっくりして行きなさい。温泉のあとにはユクモの霊水をキュッとやると、これまた格別なんじゃ。どうじゃ、チミもやるかね?」
 老人は上機嫌だが、明らかに霊水とは、お酒であった。
「おっとと、まずは湯からじゃな。はっはっは。邪魔したのう」
「どうも……」
 老人が再び手酌で始めたので、ギンダマはその場を離れた。受付嬢に目をやると、にっこり笑って会釈をしてくれたので、返礼して、その場を離れた。
 そう、まずは、湯だ。

狩猟 | 12:00:01 | Trackback(0) | Comments(0)
モハポ劇場 温泉編(上)
 そういえば、解説の必要はないと思っていたけど、念のため、これは「モンスターハンターポータブル3 劇場版」の略でモハポ劇場です。前作(?)モハフ劇場の内容が前提知識として要求される場面が出てくることもありますがご了承を。

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 雲間から光が差す頃、男を乗せた荷車は目的地のユクモ村に到着していた。
「いやぁ、旦那さんのおかげで助かったニャ。ありがとうニャ」
「俺もあの山道を歩かずに済んで助かったよ。ありがとう」
「旅は道連れ、世は情けだニャ~。ユクモ村にはここしばらく常駐の狩人さんがいないからか、最近山道が物騒で困るニャ。
 旦那さんなら歓迎してもらえると思うニャ~。それじゃ、縁があればまたニャ」
 荷車のアイルーは手を振って別れを告げ、荷物の届け先に行くのだろう、ガーグァを再び歩かせ始めた。その後姿を見送って、男はカサを脱ぎ、銀髪を右手でかき回して風を通した。しっとりと濡れた重いカサで押し付けられて落ち着かない感じになっていたのだ。少々癖のある銀髪を手櫛で簡単に整えた男は、満足げに空を見上げた。
 夕立の過ぎ去った空に浮かぶ雲が、傾きかけた太陽の光を受けて橙に染まっていた。

 巨木を伐採して建てたのであろう、ユクモ村の入り口の門は、この地方に良く見られる、鳥居と呼ばれる形をしていた。鳥居の手前にある石段には、浅黄色の布の服を来た若者が腰掛けており、のんびりとくつろいでいたが、男の姿を見ると、立ち上がった。
 武装をしているわけでもなく、鳥居のそばに腰掛けていた若者が立ち上がっただけ、表情は柔らかく、微笑んですらいるのだが、それでも無視して通ることはできそうにないと感じる不思議な雰囲気があった。
「こんにちは」
 恐る恐る、男が無難な挨拶をすると、彼はゆっくりと近づいて来た。
「こんにちは、お兄さん、旅の人かい?」
「ユクモの秘湯に治らぬ病なしと聞ききまして」
 それを聞くと、若者は両手を広げて歓迎の意を示した。
「そうかい、いや、オイラはユクモの門番をやっている者でね。これもお役目なんで、勘弁してくれ。
 旅の人なら俺がちょっとそこまで案内しよう。なに、これも仕事さ」
 と、有無を言わさぬ様子で、男に背を向けて石段を登り始めた。男はおとなしく門番を名乗る若者に従って、石段を登り、鳥居をくぐってユクモ村に入った。
「そうだ、先にアンタの名前を聞いておかなきゃいけなかった。いつまでも旅の人ってわけにもいかねえ」
「俺は、……ギンダマ」
「ギンダマさんか、よろしくな」
 若者は石段を登りきったつきあたりに来ると、左方向を指差した。
「あっちには農場があるんだ。開墾は続けてるけど、このあたりはわざわざ畑を拓くよりも山に入ったほうが手っ取り早いので、あまりはかどってない感じだ。腰も痛くなるしな。
 興味があるなら後で案内しよう。まずはこっち、商店通りだ」
 つきあたりを右に進み、緩やかに曲がる坂道を登ると、広場に面した商店や鍛冶場が見えてきた。大きな丸い岩を二つ積み上げたようなものがあり、岩と岩の隙間からは時折湯気が漏れ出ている。隣に「ユクモ温泉たまごあります」という幟が立っている。土産物屋らしい。
 その隣には雑貨屋なのか、薬草にはじまり虫取り網やピッケル、砥石やタルを並べた店があった。
「雑貨屋さんは主に狩人さんが利用するんだが、ユクモ村には今、常駐の狩人さんがいないのでちょっと暇してるみたいだ。もっとも、経営の半分はギルドが持っているから、構わないらしいけど」
「アンタに暇って言われたくないわ」
 店番の女性が門番の若者に抗議の声を上げた。若者と同じような浅黄色の着物を着た、朗らかそうな女性だ。
「オヤジさんの手伝いもしないで門で座ってるだけじゃないの。
 お客さん、あまりそいつの話、真に受けないでね。お土産からピッケル経由で調合指南書まで取り揃えてるわよ!」
「……アオキノコ、ありますか?」
「アオキノコは自分で取ってきてちょうだい。薬草ならあるわ」
「ですよね」
 雑貨屋を後にし、先に進むと、若者は少しバツが悪そうに頭を掻いた。
「いやさ、俺もいつまでもブラブラしているつもりじゃないわけよ。オヤジの跡を継ぐべきか、俺の道を切り開くべきか、悩む年頃なわけよ。それに、オヤジと山に入った時にブルファンゴが尻に突撃してきて、その傷がまだ癒えてないんだよね」
「尻が痛くては何もできぬ、ということわざもある。焦らなくてもいいさ」
「おっ、ギンダマさんは話がわかるね」
 若者は嬉しそうに言った。
「ユクモ村の温泉の湯元からさらに奥に霊峰って呼ばれる山脈があって、たまにギルドの調査員や学者先生が出かけるのを見るんだ。もしかしたらオイラもそういう高尚なガクジュツ的仕事が向いてるかもしれないだろ? 可能性は広げていくものだと思うんだよね」
 ギンダマは無言ながらも時々頷きつつ、門番の若者の話しを聞いていた。
「おっとと、話がそれたな。この石段の上が広場、あっち側が鍛冶屋さん。ギンダマさんみたいな湯治のお客さんには無縁かもしれないが、簡単な武器防具を一式買うこともできるし、素材を持ち込めばそれに見合ったヤツを職人さんが作ってくれる。
 普段は村人の日用品も作ってくれるんだが、いい腕してるんだよね。
 ユクモ村周辺の山々には丈夫な繊維が取れる木や草が多くて、そういう日用品も土産として人気なんだ。もっとも……」
 門番の若者はちらりと男の服装に目をやった。
「ギンダマさんが着ているのが、その土産の目玉、ユクモの胴着一式なんだがね」
「これ、港町で買ったんだ。ユクモ村への道を聞いたら、湯治客はこれを着ていないと相手にされないって言われて」
「あいつまだあの商売してるのか」
「有名なのかよ」
 このやり取りは二回目だと思いながらも、ギンダマはそう言わずにはおれなかった。

狩猟 | 11:44:30 | Trackback(0) | Comments(0)
モハポ劇場 プロローグ その2
 山麓を吹き抜ける涼風が背の低い草花を揺らす。一年中、雪に覆われた山頂から吹き降ろす風は、降雨や日照に恵まれたこの山麓においても、植物の背丈が伸びることを許さない。大きな岩は数万年前に存在したらしい氷河に持ち去られるか、風雨に削られてその姿を消したことは、ここを飛行船の発着場にする者たちには非常に都合のよい場所だった。
 気温が低いことは、飛行船の高さを調節する燃料が少なくて済み、常に一定の方向に吹く風は発着の管理を容易にしていた。
 発進を間近に控えた飛行船に続々と荷物が運び込まれている様子を、竜人族の老人が満足げに眺めていた。
「今回の観測任務は少々危険を伴うが、そちを雇えたので心強いわい」
「光栄です」
 隣に立つのは、全身を覇竜アカムトルムの素材から作り出した、周囲に威圧感を与えずにはおれない装備に身を固めた男だった。背中には、威圧感というようりはもはや禍々しさを感じさせる黒い槍があった。
 黒龍槍。伝説の黒い龍から得られた素材を打ち込んで作り上げたもので、その槍は使い手を選ぶ。槍を手にした者の意志が槍に浸食され、狂気にむしばまれる使い手が続出したという噂があり、その結果として、通常は行われない武器の取引ルートにのり、使い手を次々と変えてきたとも言われている。
「機関車ライナスとの二つ名を持つ、そちの腕前を見てみたいものじゃが、今回は狩猟ではなく、調査の護衛なのでな。
 仮に敵襲がなくとも、約束通り報酬は払う。それでよいな」
「事前に取り決めた通りでございます」
 老人に対する充分な敬意のこもった返事に、満足げに頷いた老人は、飛行船のほうへ歩き始めた。
「ところで、わしのことはどの程度知っておる?」
「以前はギルドの重鎮に位置した大臣殿、老山龍の襲撃に乗じて、反逆者が身柄を拘束したために一時公職を退いておいでだったと、聞き及んでおります。いずれにせよ、観測任務はギルドに属する全ハンターを支える重要な任務でありますから、この重要性を理解されている大臣殿こそ、重要な責務を果たすに相応しいお方でございましょう」
「はっはっは、さすがに褒めすぎじゃ」
 まんざらでもない、という様子の老人。
「だがお主もわしと同じく、ギルドと人類社会に貢献する能力と覚悟を備えた者と見える。
 長くわしを支えてもらいたいものじゃ」
「御意に」

 二人が飛行船のタラップにたどり着くと、荷物はあらかた運び終わり、出港手続きを待つばかりのようだった。
「準備はできておるな?」
「あと、2つほど、荷物が。手続きはもう人を遣っておりますから、管制塔からの手旗信号を待っております」
 タラップの上から、操舵手が額のゴーグルを左手でいじりながら応えた。
「よろしい。準備ができ次第、出発せよ。わしは船室に入るでな」
「了解致しました」
「おっとと、すみません、荷物を先に失礼しますよ」
 タラップを上がろうとした老人を制して、白い布に包まれた大きな荷物を背負った男が先にタラップを登り始める。防寒のためか、白い長衣にフードまで目深に被り、かなり重い荷物であろうに、軽々と登る姿は頼もしかったが、老人は渋面であった。とはいえ、これから飛行船で短くない時間をともにし、かつ、自分の命令を手足となって実現する連中であるから、見逃してやる、という風情で、荷物を運び終えた男が荷物を降ろして、会釈するまでたっぷり時間をとってから、大儀そうに飛行船に乗り込んだ。
 さっさと船室へ引っ込む大臣を追い、アカムトルム装備の男、ライナスと呼ばれた男が飛行船の通路を歩く、その時、先程の荷物を知ってか知らずか、足に引っ掛けた。と、いきなり太い腕を伸ばすと、荷物の横に立っていたフードの男の胸倉を掴んだ。
「いつまでここに置いておくつもりだ? さっさと片付けろ」
 フードの男は声もなく両手を挙げて無抵抗の姿勢を示し、小刻みに頷いた。その様子を見て、ライナスは兜の中で小さく鼻を鳴らす。その表情は見えないが、明らかに軽蔑した声で吐き捨てた。
「飛行船から突き落とされないように気を付けろ。俺は気が短いぞ」
 フードの男の返事を待たず、ライナスは老人を追って船室へ姿を消した。その様子を見ていた操舵手が、飛行船の通路にある手すりを叩いて、存在をアピールした。
「気にするな、元大臣に取り入るのに気合入ってるだけだ。船員に手出しはさせねえ。操舵手兼船長の俺が約束する」
「頼りにしてますよ、船長」
「へへ、危ないと思ったら大声出して俺を呼べよ。
 ……それにしても、ライナスっていやぁ、老山龍相手に単身立ち向かってドンドルマの撃龍槍までひきつけた猛者だって聞くが、あんなゴマすり野郎とは思わなかったぜ。
 噂なんざアテにならねえもんだな」
「聞こえますよ」
「そうだな。ああいう奴ほど、他人の陰口に聞き耳立ててるもんだからな。
 おっ、手旗信号だ。出発するぜ。荷物、しまっておいてくれよ」
「了解」
 今度は素直に明るく応じたフードの男が再び、大きな荷物を軽々と持ち上げ、船倉へ降りて行った。
「……アイツ、あんな力持ちならハンターでもやっていけそうなモンだがナァ」
 とはいえ、仕事のできる部下をわざわざ手放すようなことをするのも野暮な話であった。ゴーグルを額から降ろし、腰のホルスターに収めていた紅白の手旗を握ると、管制塔に向かって「了解、発進する」の信号を送った。
「ま、ハンターよりは安全で実入りが良くて社会のためになるいい仕事だからな」
 飛行船がゆっくりと地面を離れ、舫綱がするすると巻き取られた。

狩猟 | 23:59:55 | Trackback(0) | Comments(2)
モハポ劇場 プロローグ その1
『やあ、俺だ。君のことだから、今も元気にしているのだろう。心配はしていない。
 俺のほうは、命懸けの一攫千金生活をやめ、比較的安全で実入りが良くて世の中の役に立つ仕事をしている。
 逆バサで稼いだ貯金はあるが、ブラブラしているのもカッコがつかないのでな。

 ドンドルマは、変わったところもあるし、変わらないところもある。まあ、それは詳しく語るのはやめておく。
 一番変わったのは、君がいなくなったことだからだが、でも、仕方がないさ。
 そうそう、れなはが「利権もないのに組織は維持しないぞ」と少し怒っていた。謝っておいたほうがいいぞ。

 同封した地図は、どうせ旅立つなら足を延ばして、湯治でもしたらどうかと思って、隣の大陸の有名な温泉郷の場所を示しているものだ。かなりの秘境だから、気が向いたらハンターの仕事でも引き受ければ、生活には困らないだろう。
 まあ、パーティは組めないだろうけどな。今の君にはそのほうがいいかもしれない。
 それじゃあ、また、元気で』

 もう何度も読み返した手紙を、また読み返している。ただ、この地方で一般的なガーグァという大型の鳥が引く荷車の上は、あまり文字を読むことに適した環境とは言い難く、目をしばたかせてこみあげてくる不快感を振り払い、手紙をたたんで懐にしまい込んだ。
「旦那さん、乗り物の上で読み物をしちゃダメにゃ。これ古来から『乗って読んだら酔う、お酒を飲んだら酔うのと同じ』と言われているとおりニャ」
 荷車を運転するアイルーにたしなめられ、ゆったりとした衣装に藁を編んで作ったつば広帽をかぶった男は肩をすくめた。
「旦那さん、見たところ、ユクモ村に里帰りかニャ? ユクモ村はいいところニャ~」
「いや、湯治に行くんだ。この服は、港町で買ったんだ」
 ドンドルマを出て、長らく徒歩の旅をして、船に乗って隣の大陸までやってきた彼が、こちらの大陸の港町でユクモ村に行くにはどうしたらよいか、ということを手近な店番に尋ねたところ、湯治客はこの服を着ていないと相手にされない、ということを聞かされ、素直に一式、サイズを合わせてもらうことにしたのだ。
 だが、結果的に、その服装で街を歩くと完全に「最近ユクモ村に行ってきた人」扱いされ、最近のユクモ村事情、特産キノコの今年の取れ高、門番の男の尻のダメージは回復したか等等、知りもしないことを根掘り葉掘り聞かれ、非常に難儀したのであった。さすがに腹に据えかねて文句を言いに行ったら先客がいて、例の店番は「ユクモ村は秘境なので、この服を土産に買わないと『湯治に行ってきました』『またまた御冗談を』という感じで相手にされないの意」と話しているのを聞いてしまい、ますます厭世気分が高まった彼はユクモ村に向かう荷車に便乗させてもらえるという話を求め、踵を返したのであった。
「あいつまだあの商売しているのか~。旦那さんもお人よしニャ」
「有名なのかよ」
「有名だけど、ボッタクリでもないし、素材はユクモ村から仕入れている本物ニャ。仕立て屋の腕もアイルー界隈でも評判いいニャ。ユクモ村でお土産を買い損ねた客にはありがたい店だし、他人の商売に口を出す時間があるなら自分の商売をするのが金持ちアイルーおじさんの教えニャ」
「……なるほどね」
 癒し系の外見に見合わず、現実的というか、お金に執着するような発言をするアイルーに少し面食らった様子の男であったが、考えてみれば、彼がドンドルマで世話になっていた給仕ネコも、その仕事に見合った給金をギルドからもらっていたわけであって、様々な価値観を橋渡しするお金という概念に善悪やキレイ汚いの評価を加えること自体、おかしなことであった。
 今の彼には浮世の憂さを忘れ、湯治か何かでゆっくりする必要性があることは確かなことのように思われた。
「まもなく峠を越えるニャ。ユクモ村はまもなくニャ」
 峠、といってもさほど険しい道ではなく、周辺の木々も針葉樹が多いものの、広葉樹も少なくなく、秋には見事な紅葉が山を彩るのだろうと思わせる場所だった。今まで進んできた道は斜面を斜めに何度も往復する山道で、舗装はされていなかったが、それなりの数の荷馬車が通過する道のように見えた。
 そうでなければ、もっと下草が生えていても不思議ではない、それほど、周囲の山は草木に満ち溢れていた。谷の向こうに見える山肌にはやはり木々がひしめき、うっすらともやがかかっている様子が見える。そして、その空には徐々に暗い色の雲が広がりつつあることも。
「ひと雨、来そうだね」
「あちゃー、思ったより早く降りそうニャ。少し急ぐニャ」
 荷物はきちんと木箱に収められ、藁をかぶせてあるが、ぬかるんだ山道を進むのは危険を伴う。ずるりと滑れば一巻の終わり、ということもあり得る。荷車の加速に備え、男はわずかな自分の荷物を腹に抱え、荷台のへりを捕まえる手に力を込めた。
 加速した荷車が峠を越え、折り返しを二回ほど過ぎたあたりで、男は青白い光を見た。状況的に、稲光かとも思ったのだが、光は空ではなく、木々の中から見えたように思えた。腹に抱えた荷物を放し、厳重に布で巻かれた棒状のものを取り出す。素早く布をほどくと、立派な太刀が出てきた。
 光の見えたあたりを駆け抜ける荷車の上で、全身に緊張をみなぎらせた男が太刀を手に立つ。その心配をよそに、何事もなく荷車が通過するが、次の折り返しを過ぎ、再び光の見えた場所を通過する、その時、巨大な影が背の高い草むらから飛び出した。
 とっさに太刀を抜き、眼前に迫る鈍い金色の爪を弾いたが、その勢いはあまりにも強く、男は荷車から放り出され、草むらに落下した。
「だ、旦那さん!」
「そのまま進め!」
 心配そうなアイルーの叫びに、男は返事をし、草むらを転がり落ちるようにして駆ける。今度は横から、巨大な影が襲い掛かってくるのを前転して回避し、さらに足を速めた。二、三回、自分の速度に足がついていかず、前転をはさんで、斜面を駆ける男の視界を青白いあの光が尾を引くようにして過ぎ去る。それを目で追わないように必死にこらえ、男は草むらから跳躍した。そこに折り返してきたアイルーの荷車が来て、男はどすんと荷台に落下する。
 すぐに背後に向き直って太刀を突きつけるが、後を追ってくるものはなかった。いつの間にか降り始めた雨は大粒で、つば広帽子の前に小さな滝ができており、遠くから雷の音が低く轟きわたって来ていた。
 雨の中、荷車が駆ける振動に、今度こそ振り落とされないようにと、腰を低くし、ふたたびへりを捕まえるが、抜身の太刀を握る手と、背後を睨む目から力を抜くことはできなかった。

狩猟 | 12:34:19 | Trackback(0) | Comments(0)

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